秋の剣岳,早月尾根

         長次郎雪渓で2年生転落,
         一瞬が走馬灯のように流れ,最後の最後に彼のピッケルで,

 伊折より早月尾根  ,

    
剣岳,早月尾根 
              s44年07月02〜06日,

                          L松村,sL山田,m松本,中沢,飯田,見城,

 ,

      見城さんの希望を含め剣へ。 入山は裏剣を覗くべく馬場島より黒部へ下る。
        時間的関係から下ノ廊下へは中止,黒四ダムへ下山する。
      2日目,幕営地は予定通り長次郎谷,熊岩に天張ったが,
        集中豪雨の予報をキャッチし,シュラフを抜け出し真砂に逃れた。

        馬場島―剣ヶ岳―長次郎谷―真砂―内蔵助平―御前小屋―黒四ダム,


    7月02日,曇,   上野20:40=
        3日,快晴, 5:09冨山5:35=5:55上市7:30=9:40馬場島9:55一10:50松尾平11:05一14:48避難小屋15:15
                一16:35(2400m地点)テ1,


      伊折部落
   始発,上市経由,宇奈月行に乗ったにも関わらず,バスは上市を8時半に出るとの事,
     それ故,最奥の部落,伊折まで足を伸ばし待つ事にする。
   伊折の神社,鳥居の下でゴロゴロ横になり馬場島へのバスを待つ。
     でっかい図体の男だもが,本堂への段坂を埋めている。通いたい人が居ても奥へ入れなかっただろう。
     幸いか,それらしき人が,来なかったから良かったようなものである。

   伊折の停留所から覗む裏剣は,豪剣そのものであった。
     大窓,小窓,三ノ窓と遥か彼方の山肌は,異国の山を連想させ,山稜は大きく鋸を描いている。
   又,この風景を煽るよう萱葺き屋根が谷間に似合い,奥深い里を思わしていた。
     僕は思わずカメラのシャッターを切る。

  早月尾根の登り

 



     馬場島より
  ゾロメキ(白萩)発電所を過ぎると,その裏が馬場島である。
    立山川と白萩川を遮っている早月尾根は,ここを尻に留め,
    顎の出るような高度を持ち一直線に伸びている。

  末端,第1歩より濛々とした樹海であった。
    径は迷う事なく,しっかりした踏み跡を残し一歩々に高度感がうかがえる。

   松尾平を越し一本目,立山川が右手を急なガレを落とす,高度800m程,残雪で埋め尽くしていた。
     快いそよ風が流れている。

尾根つめ三ノ窓,後景は鹿島槍ヶ岳  ,
剣、早月、三ノ窓.jpg  
477x317x24 
35.80 KB

       早月尾根

   早月尾根はここのみならず池ノ谷側の方が立山川側より穏やかな傾斜を持っている。
     再び視界の利かぬブナの樹林帯を進む。
     そして松林に掛かる頃,視界は木々を通し望めるようなった。
   赤岩山の雄大な両肩が映り出された。
     潅木が目立ち始めるとコマクサなど高山植物が径々を被うようなる。

   早月尾根は最近かなり整備されたとはいえ,踏み跡と自然の競合芸術のようだ。
     落葉が被っていると思えば倒木もあり又,巨木の根が雨水の力や踏み跡で階段を築き,
     白樺,岳樺の原生林は自由自在のその枝を伸ばす。

   2100m,非難小屋付近から新芽が夏草と共に出始めた。
     蒼空と剣の頂稜を境に悠然と雪白き肌を伸ばし,清らしい若葉は清々しさをもたらしている。
   夜行疲れが一行に出て来たようだ。
     傾斜は緩んだとは云え,着実に100m,200mと高度を稼いだ。

  2600m峰を過ぎ, 左,池ノ谷雪渓,

 

    泊り場

  2100m地点、今日の憩いの場である。
    馬場島から一挙に1650m詰めた事になる。
  立山川の突き上げ大日連峰には,大きな残雪がへばり付き,
    左手には,剣北面の峰々,尾根が,頂を奥深く構え夕日を浴び,そそり立っていた。

  ここから覗む小窓尾根は,眼下に見下ろすような所にある。
    その下,池ノ谷上方は,剣尾根末端から右俣側全容を映していた。


   小窓,大窓は覗めぬが,その奥に池ノ平山,白禿,赤禿から一旦稜線を落とし,
     森谷山の威容に結び、更に手勝の山々が夕日から帳へ入り込もうとしている。

     明日は2600mで森林限界を越え,頂から熊岩に天張る予定,

頂稜  ,
a20.jpg  
463x322x24 
19.26 KB

      7月04日,曇後雨,
                 2400m地点TS,5:40一9:50剣岳10:30一11:10長次郎ノコル,

      頂稜
   昨夜,万里の天の川を仰いだ為か,思ったより天気は持ちそうだ。
     早速,うぐいすの鳴き声に釣られ出発した。

   漸く残雪らしくなる。池ノ谷の最奥には大きな岩壁が被い,塞ぎ,
     その間々鋭い溝のような右俣が,長次郎ノ窓まで続いている。
     各峰々を前衛とする屏風は恐ろしい程素晴らしい。

   2本目,2600mを越す。視界は東大谷まで広げ,左尾根,三本槍が顕著な最後を築いていた。
     昨日の疲れも取れたようだ。足取りも軽く,幾つもの頂稜のコブを越し,峰々の荘厳しさを味わった。

   窪地の両岩壁を窓に赤い屋根が目に入った。平蔵の避難小屋,その下には岩峰群と残雪が長く伸びている。
     目を右に向ければ,別山尾根は立山三山へと繋ぎ,眺望は更に五色原の彼方まで楽しめられた。

  乗越より長次郎谷

 


     剣山頂

  最後のツメ,脆い岩稜を終わると剣山頂に飛び出る。
    汗で体が濡れ肌寒い。早速コンロを点けた。ツエルトに暖かみが篭もり,湯は体を芯から温める。

  今回の目的。初めての裏剣,その里に入り,高度差と剣しか入れぬ裾野を越えてきた。
    曇天の頂でも,私には安らぎがと安堵に満ちている。
    これからの雪渓に心は弾んでいた。

      透る眺望
   視界は曇天であるのも関わらず,恵まれた視界は,立山連峰から笠,槍,穂高連峰へと。
     更に戻すと燕から後立山連峰へと続く。昨年秋,縦走した峰々が黒部を隔て望めた。

   霞のような灰色の岳が墨絵のよう望め,鹿島,五龍と綴り,白馬から伸びた北の峰々の先に延びている。
     海岸線を通し能登らしき影も認められた。
     白味を薄く帯び富山湾に突き出した岬,半島が望まれる。

      停滞前線
   より薄暗くなる。南方を見るに延々とした,梅雨前線が,ちょっとの間に随分北上した。
     もう悠著していられない。白く湧き出したガスも黒ずみ,槍の穂先は,もう隠れている。

   目の前に雲堤が押し上げて来た。見る見る岳を呑み込んでくる。
     目に見えぬ遠征アラスカを望み,ガンバレ節をガナり頂を跡にした。

長次郎雪渓,全容,県警より  ,

    長次郎ノコル11:25一14:35熊岩上部:20一14:32二股,テ仮2,


       長次郎雪渓,事故

   長次郎ノコルより雪渓に入る。ここで私自信反省すべき事がある。
     ザイル確保による下降を念頭に入れていたが,
     2年生のファイトで,最とも急と思われるツメの斜面で,20m程独自で降ろしてみた。

     それが上手くいき距離を短くして下らせた。過失は下降以前に重荷にあった。

 ,

  滑落,ストップ地点から八ッ峰と後立、

 


     転落

  雪径最上部から100m程,降りた地点で飯田君が転落した。
    私は彼を確保する為,20m程下で態勢を取り待っていた。
    まず中沢君が降り,上手くいった。この分だと11時前にテントが張れるぞと頭に閃く。


   その直後,飯田君が転倒。確保した私のピッケルは折れ,私も飛ばされた。
     彼は一時,停まりかけたと思われたが,私が見た時,落ち始めている。
     キスを背負っつた間々,彼に自然と飛び付き,早く停めねばと焦る。見る々スピードがでた。

   私は「足を下ろせ」「足を下ろせ」と繰り返し2,3度言ったと思う。
     後から思えば彼にしては道理に行くはずないが,その間々体が半回転する。
     彼の頭が下を向き,私はがっちり彼の体を被い,手が雪面と摩擦するのが分かった。

      スローモションになる脳

   それを感ずるや,自分でも驚く程の冷静さを取り戻させた。

   冷静さを取り戻すと同時,熊岩直下に目が向いた。あそこまで落ちてしまえば終わりだ。
     クレパスがある。あの前で停めねばと,左手からまず指を雪面に突き立て,雪面に溝を築いた。

   すると摩擦の為か,加速が気持止まってきたようだ。
     二人の重みが手に掛かり, 手から指への感触は,もう痛さから麻痺しだしている。
     そして指が雪をを削る感触は分かるが,止まらぬスピードに焦り,気は揉んでいた。

   彼はピッケルを寝かした間々,持っているではないか。右手が自然とブレードに伸びた。
     そして二人の体重が,上手く効いてくる。
   キスを背負い被さった彼の体の下にピッケルが入いる。それを死にもの狂いで強引にブレードを握り,上に被さった。
     除々にスピードが落ち,漸く約300m滑落し熊岩へ1/4程で止まった。

   彼が私の指図どうり転倒してもピッケルを手から離さなかった事が,
     無事停める事が出来た唯一の決め手だろう。
     離していれば,バンドで繋がれたピッケルは,更に跳ね回り危険この上なかったと思われる。

   彼は驚く程に無傷だ。私は両手に少々の傷がある。
     良く見ると左手には豆粒程の血豆が5,6ヶ所ある。

   転落して一瞬の間に,知らずして頭は回転した。まるでスローモーションになり,第三者として見ているように。
     細かく物事が見える。凄いスピードが,何秒の一瞬を頭はゆっくり動かしていた。
     実際は6,7秒かも知れないが,頭は次元の違うスピードで走っていた。


      恐怖心
   ひと段落して残りの者をツルベ式にザイルを結び下降,全員揃ったところで腰を下ろした。
     八ッ峰に浮かぶ鹿島槍が印象的だった。心の落ち着いた一時でもある。

   後の雪渓は今までと比べ緩やかで楽であるが,恐怖心や疲労が出て,十二分に慎重な動きを取る。
     後輩達に気を落ち着かせ,私は山田とザイル40m一杯に何回も固定し熊ノ岩に達した。

熊岩,Ts仮2  ,

       熊岩CS

   小雨は今にも本降りになりそうだ。早速CSを熊岩上に設営し,全員がテント内に落ち着いた。
     2年生は水を造る為,雪を溶かし,暇な者は個人装備を整理し,ローソクに火を点そうとしていた。

   今日,一日のアクシデントも炊事に精を出し,コンロを囲んでいると皆に落ち着きが出てきた。
     笑い顔が現れた。冗談に飯田君も答えている。否や,反論しているようだ。
   山行の峠も越し皆が笑っている。
     久し振りの雪上幕営で,破邪いでもいた。  17時,


 ,
  長次郎雪渓,熊ノ岩幕営地
剣、三.jpg  
250x350x24 
17.42 KB

    熊岩,食後テント撤収

       熊岩,二股テ仮,17:40一19:00真砂沢,テ2,

  日記を付けながら明日の行動を考えていた。
    ペンを走らしている時,北陸放送17時,天気予報が耳に入る。


   低気圧の影響で九州,中国地方,雨,その前線が北上し北陸を被うとの事,
     そして富山地方は平野部,20〜30mm、山間部100mm前後の豪雨にみわわれる。
     実際,剣岳で我々は前線の接近を見てきた。そして表日本は梅雨明けとなる。

   皆,かなりの疲労が目に見えている。が,より安全な所へ,シュラフを飛び出て撤収した。
     ヘッドライトを頼りにグリで下る。雨の中,硬く凍ったスノーカップの雪渓を真砂沢出合に向った。
     これから闇夜の設営が待っている。

     41年08月, 剣,真砂沢Bc,

長次郎谷出合  ,
お一10.jpg  
254x358x24 
29.38 KB

    7月05日,雨, 真砂沢cs一内蔵ノ助平一御前沢cs,

      真砂沢Cs  
   明け方,集中豪雨はピークに達し,連日の行動で体力の消耗が激しく,黒部,下廊下を断念する。
     起床を8時と遅らせた。

     真砂沢TS,10:00一12:35ハシゴ谷乗越13:00一14:00内蔵助平14:25一15:50御前沢,テ3,

      ハシゴ谷乗越
   10時10分真砂沢を出発,正規ルートに従いハシゴ乗越まで,左岸沿いに行くが
     対岸に渡るべくスノーブリッジが脆い。空身で漸く渡れる程度である。
     ザイル使用も考えたが,雪渓末端まで戻り右岸へ移った。

   初めハシゴ谷出合まで剣沢を下るつもりだったが,真砂から直接向かうコースを見付け枝沢へ入る。
     小雨に冴える若葉が美しい。一日の疲労と,この快い快感は同じくらいの疲労回復剤になる。
     7月に入っていると云うのに涼しく,盛夏の 茂とした樹木を汗を垂らし,むんむんする登行もない。

      剣
   喉を潤し尾根に出る。階段状の歩き難い径だ。バック右手に剣が現れた。
     深いガスを抜いてリッジが現れ,八ッ峰らしい。その隣に源次郎も,前剣も,雪渓が覗められる。
   頂は見止めるや否や,乳白色の泡に沈み,灰色地味た峰々も消え去った。
     もうガスだけで剣の存在すら分からない。リッジや雪渓は壁のようであった。
     鋭い山だ。
  
  ハシゴ谷乗越より八ッ峰
お一9.jpg  
395x265x24 
42.60 KB


     内蔵助平

  乗越は十字に切っていた。その間々,真直ぐ進めば黒部別山に出る。
    左,北側への径は,今朝登り詰めようとしたハシゴ谷出合よりの古典コース、
    そして南は内蔵ノ助平,この径を選んだ。

   内蔵助平は時々陽が差し込み明るい。霧が又,それを浮き出していた。
     駆け足気味に小径をドンドン下れば,内蔵助の濁流に突き当たる。

      濁流
   丸木橋の渡りは,トップが渡るまで,皆,内心転落を恐れていたようだ。
     針金と丸太のがっしりした橋であるが。
   1人りずつ丁寧に渡る。時間が掛かり,もう対岸でザックを降ろしている。
     一本取った。沸かして来た紅茶が,適当に冷えて美味しかった。

   内蔵助谷の激流を追えば黒部渓谷に入る。
     出合近く、鉄砲水の流れは大岩や倒木を巻き込み,桁違いの濁流となり押し寄せている。
   轟音を響かせ唸る沢。
     梅雨期,最後の集中豪雨,初めて見る圧巻の流れ、近ずけぬ程のすざまじさがある。
     もうダムサイトも近い。

   黒部川,下廊下、野イチゴを径端で見付けた。可愛い小さな実だ、見ている内に口へ運んでいた。
     甘酸っぱい香りが口の中に膨らんだ。

黒部川  ,

       御前沢小屋

   雨宿に使った御前沢小屋,隣の新築中の小屋が今日の泊り場となる。
     まだ柱と屋根だけの棟上げが済んだばかりの薄くらい小屋に,テントを張りランタンを灯す。
   濡れた衣類や靴下が,新築中の柱,脇板に掛かり,
     あっちこっちに掛かるも寒い乾燥室のようだった。気休めの干し物が飾られていた。


      風呂
   もうここから30分も登ればバスが待っている。
     張り切っていた気が緩む思いで,小屋番の甘えを受け,体を流させてもらった。
     気持良い一言に尽きる。

   この小屋は関西電力が経営しているとこ事,
     電力源がふんだんにあるせいか,湯がドンドン出る。
   アルプスの真中,黒部の懐で風呂を浴び,今晩は焚火を囲い,食糧を空にしよう。
     もう腹にたらふく入れ込んでいる者が居る。

 ,

  黒四ダム
a61.jpg  
435x313x24 
29.25 KB


    7月06日,小雨後晴, 御前沢cs一黒四,

      御前沢TS,8:40一9:50黒四ダム11:03=11:17扇沢11:30=12:05大町14:07
         =14:58松本15:10=19:44新宿,


   夜半の雷雨も止み,全コースを終え黒四にでる。
     ダムサイドでの乞食姿は如何なるものか,何と言われても山を降りて来た者にとって,
     満足感と開放感に溢れ,変に小細工する方が反っておかしい。

   ダムサイトで善哉を食べた。山で最後に口へ入れる物である。美味い。
     今日中に東京へ帰れるだろう。                     ダムサイトにて

     42年08月, 立山〜槍ヶ岳,

      今回の山行
   最初の計画では剣岳池ノ谷左俣にあった。その為,残雪を考え梅雨期を選んだ。
     更に見城さん,山田と共に奥秩父へザイル使用によるトレーニングを行った。
   しかし出発間際、白萩川の石室が現在ない事を知り,
     天候悪化も時期は会社の関係で動かす事が出来ず,コース変更するしかなかった。

   入山,前々日の会合で二年飯田君の参加希望で早月尾根を選んだ。
     コースは頂を踏み,長次郎雪渓から下廊下を経て阿曽原で露天風呂に漬かる。
   そして出発前日、更に二年生2名の参加希望がある。如何しても参加したいと。
     このような手前,現役を連れて行くのに悠著したが,
     学内紛争,合宿の延期と,執行部の頼みを含め6名で行う事になった。


     シモン,スーパーD,
                                                        山径,剣岳早月尾根,
                                                        山径Top,