初冬の乗鞍岳と伊那の里

  冬山初体験多く,10人連れて
  スカイライン,今日で封鎖、下山後,伊那谷へ  

蝶より乗鞍岳  ,
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初冬の乗鞍岳
             s44年11月07〜11日,

               L松村(43年OB)sL西沢m沼津,中沢,中西,遠藤,古池,立松,中川,大橋,




   乗鞍は北アルプスと中央アルプスを結ぶ,御嶽山と並ぶ独立高山で互いに広い裾野をもち,
     飛騨と信州を分けいう形でそそり立っている。
   一見似ている双岳も,乗鞍は御嶽に比べ,あくまでも更に広い裾野を構え,
     伸び伸びと頂まで続いていた。

   今山行は冬山初めての者が,半分を占め乗鞍を選んだ。
     又,山への深い懐を求め,裾野を野麦峠への径を選んだ。

     畳平―剣ヶ峰―里見不動コル―平湯, 辰野泊後,伊那へ,

  アイゼンを付け

 

   11月07日,晴, 新宿23:55=


     8日,曇一時晴, 4:40松本5:05=8:55畳平9:00一11:45肩ノ小屋h,

  高度を稼ぐにつれ車窓に乗鞍高原の広い台地が開け,
    雨上がりの樹葉は秋の海で飾っていた。

      岩遊び
   宇宙研究所の在る摩利支天峰を回る車道の東面に,面白そうな岩壁を見付け攀じってみる。
     左へトラバース気味に登り始め,深い溝をバックアンドフットで直上すると,被り気味になり関所を造っつていた。
   根雪になったばかりの新雪は,薄すら岩片に積り,待ち憧れていた僕の心を擽る。
     冷たくふくよかな雪の感触が素手へと伝え,僕の気持を掻き立てた。

   高さ10m程のちっぽけな岩肌も攀じってみれば面白い。僕の真似をして下級生もやり始めた。
     強引に登ろうとする者,行き止って往生し悩み疲れ落ちる者,両足が浮いてしまう者。
     各々先天的な登り方で二度,三度挑んでいる。

   そして遂に1年生が10mぼかりの台地に達した。すると2年の中沢が後輩に負けるものかと頑張る。
     それ故,3年の西沢は根性でも攀じらなければならなかった。
   女子も登り易すそうな岩肌を見付け登り始めた。
     たった7,8mたらずのたらずの岩肌が,僕等を有頂天に楽している。

  権現池  ,
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   影になりがちな谷沿いは,やはり雪が多い。
     新雪,溶解,凍結の繰り重ねが,谷を早くも根雪で埋め尽くしていた。
     早速,ピッケルを取り出し権現池まで行ってみる。

  権現池,半ば凍った湖上

 

朝日,蚕玉岳鞍部より北ア  ,


      穂高岳
   這い松を被う新雪に足を取られ,蚕玉岳と朝日岳との鞍部に出る。
     色鮮やかな砂礫石帯と強い風に押し集められた風成雪とが,
     一線を引き足元に交わっていた。


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   強風に身を屈め、風下に目を向けるれば,北アルプスの山々が扇状に広がった。
     一段高く,どっひり構えた鋭峰群が、良く望まれる。今だ,薄い新雪に赤褐色の顕著な岩峰が穂高を被っていた。
   吊り尾根を囲む穂高の峰々.
     岳沢の大きな扇,そして蝶から笠ヶ岳に至るバァテイケーの頂に槍の穂がはっきり望まれる。

  剣ヶ峰本峰

 


   11月09日,晴, 肩ノ小屋10:45一11:52剣が峰12:25一13:50  14:35
               一15:20里見不動コル一16:43避難小屋h,

     本峰
  剣ヶ峰ピストン、北に回る、
    観測所の裏を廻り,薄すら新雪の付いたゴーロ状の谷沿いを,下り気味に摩利支天を巻いた。
    たやふかな丸みを帯びた南峰が,柔らかい曲線を描き蒼空に広がっていた。

 室堂ヶ原と乗鞍南峰群  ,
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      乗鞍,頂稜群

   広い頂稜を歩み,かろやかな明るいさを胸一杯に感じた。
     伸び伸びした裾野が五ノ池の広い河原に注ぎ,
     氷化した湖畔が何とも云えぬ尊厳な雰囲気をかもち出している。

   高度2700mも越える台地に幾つもの顕著な起陵を築き,
     それらの峰々の総称が乗鞍岳と呼ばれている。
   火山,褶曲,断層と数ある中で,背後を望む主峰山群程,見応えのあるものはない。
     山の上に山がある。

   北側の夏径に以外な程,積雪が見られた事も面白い。
     膝を越すと思えば,靴底が岩肌に触れる変化に富む心地である。
     大黒岳に平行して高山ハイウェーが走っている。ジープが力強いエンジンの音を立てて,のろのろ登ってきた。

   一本取る。時間は16時,天気予報の時間だ。
     中沢が慌てふためいてタッシュからラジオを取り出し,天気図を作った。


 


     日没
  陽が日陰始めた陽差しに,信州側のゆるやかな這松帯を照らし付けている。
    そして刻一刻と長い山陰が谷へ流れ落ちていく。1分に3〜4mの割合だろうか。
    予報が終わる頃、目の前の這松を照らしていた陽差も,ずっと後退してしまっていた。

  深い谷間には,もう帳が忍び込んでいる。山麓と僕等の間だけ,残り少ない陽が差し込んでいる。
    後,十数分後にはその陽当たりも一線を引き,闇に包まれてしまう事だろう。


   真直ぐ北上するハイウェーの突き当たりに,驚く程近くアルプスが近ずいて見える。
     夕陽に映える穂高の凸凹が俄かに燃え,槍の穂先をオレンジ色に黒光りさせている。
   尾根の袖には常念のピラミットが。又,長い尾根が蝶へと伸び,背景を造っている。
     洛陽を待つ残照,低い山脈は次第に闇へと埋まってきた。

雪上訓練  ,


      平ノ避難小屋

   小屋はハイウェーから202m程信州側に寄った所に在った。
     コンクリートのガッチリした建物は,扉と西側の窓が壊れており薪が豊富に散らばっている。
   小屋に入ると割れた風上の窓から息も詰りような風が吹き付けた。
     ちょうど小屋自体が煙突の役目を果たしている。
     今日の泊り場と決まり,各人が手分けして働き出した。

   重い鉄扉を直す者。床を少しでも居心地良くしようと,板を積み重ねる者。茶の仕度する者。
     そして最大の難物である窓を塞ぐ者が居る。
     薄ぺらい板をフルに利用し,積木のよう板を固定していた。

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      水
   ストーブがあるので水を作る。小さなコンクリートの小屋は,湿った薪に良く煙を吐いた。
     止む事を知らない煙は,見る見る小屋に充満し,あまりの激しさに誰もが目を閉じ頭を垂れている。
     体を丸め,少しでも楽になろうと息を忍んでいる。

   10人分,丸1日の水を作り出すのだから大変だ。
     窓を開けても,それ程効き目もなく,とうとう我慢出来なくなった連中が,1人,2人と外へ逃げ出して行く。
     僕はストーブの傍で雪を溶かしている。ドンドン焚く薪に雪は直ぐ水になる。

   それをヤカンに入れるまでが僕の仕事である。その後にヤカンの水をポリに注ぐ役目の者がいる。
     ストーブの脇に居ると,それ程煙には苦にならなかった。
   火気が煙の充満をそこだけ助け,上へ々と気流が乗せて行く。
     それでも暫して苦しくはなるのだが。

      静寂な帳
   暖かい小屋から外へ出ると,冷気が体の隅々まで一瞬に襲ってきた。
     寒さと同時に雪山の静寂さが心を侵す。まして今夜のよう満天の星が,夜空を飾れば尚更だった。

   首を引っ込め,両手をズボンのポケットに突っ込み,身を引き締める強い寒気に晒されていると,
     言葉に表せぬ豊さが伝わってくる。
     冬が来た。この寒さを憶えていた体が,懐かしむ。
   それでいて僕は又,寒いとばかり冴すような冷気を逃れ,煙の充満する小屋に飛び込んだ。
     人の気ほど分からぬものはない。キジを打ったら流れ星が,谷へと落ちた。

      炊事
   駄々広い峠の小陣まりした冷たいコンクリートの小屋で,見飽きた9人の顔がコンロを囲んでいる。
     それぞれザックに腰を降ろし,煙の納まるのを待って一勢に食事の用意が始まった。
   包丁を振るい,湯を沸かし,雑煮,焚き込みとコンロは休む暇さえない。
     手際が良いが? 動き回っている。

   味付けの面白い。変わった味を作っては砂糖,醤油,塩とか調味料を加え,並にしようとする。
     そして如何しようもないと故郷の味でると誤魔化し始める。
   実際,九州,四国,山陰と西日本の勢力が強く,地方色華やかだ。
     特に,その出身が一年生に集っており,団結が強く互いに庇い合っている。

   大橋はプリンを作るとハッスルしたものの水の分量を倍入れてしまった。
     沸騰させたり砂糖を加え,幾らかだけでも固めようと,その苦労も大変だ。
     仕舞いには絶対作るぞとばかり寒い外へ,飛び出した。

   小屋に忍び込む寒気を圧するよう,ラジは「ゴーゴー」と勢いの良い音色を響かせ,青白い炎を上げている。
     激しかった今日,一日の行動、その燃え上がる炎が快い疲労として僕の体に伝わってくる。
   ローソクの炎も踊るコンロの音色に合わせて,穂のかに揺れていた。
     そして,その炎の穂先から幻想的な光照が広がり,仲間の顔を照らしていた。


   小屋が小さい故,寝所を作るのも大変だ。
     「テントと思えば」と言っても,どっこいの広さである。互に交互に頭と足を組み合わせ,肩を重ね合わしている。
     1人残ってしまったが,後から乗り込んでどうにか横になれた。

  桔梗ヶ原より穂高吊り尾根,遠望

 



    11月10日,晴後雨, 下山,
                平ノ避難小屋一平湯一伊那谷,


  避難小屋9:10一11:25平湯峠11:40,タに荷物一12:20平湯14:30=15:50新島々
   =松本=辰野=伊那市,

      平湯へ
   余儀なく泊場の変更が,更に北上し飛騨側,平湯へ降りる事になった。
     這松の高山帯を走るハイウェーは,やがて岳樺,シラベ,松の亜高山帯に入り,つづらに入いる。
     北側の故,雪が多い,凍結した道に足が取られがちで,チョコチョコ足を運んだ。

   急な斜面を縦横に走るハイウェーに雪が被り,明るい道の唸りが僕等の行程を楽します。
     丁寧に道沿いに歩いていた僕等も、こうつづらが続き,樹間を透し下るべき道がはっきり分かれば,
     悠著もない。藪を乗り越え森を切って行く。

   乗鞍の北面は広い樹林帯が広がり,3000mの異様なスケールと奥深い自然の力がみなぎっている。
     右手奥に以外と身近い所に焼岳が見えた。
     焼岳から察すると峠まで,まだずっと右へ回り込むようだ。

      タクシー
   峠で汁粉を作っていると一昨日,松本駅前で会った松本タクシーの運ちゃんに出隅わした。
     高山からの帰りだと言う。平湯まで乗せてもらう。
   10人分のザックをトランクとはいわず,後席の白いシートにも,ガンガン詰め込んだ。
     その上,荷物の管理だと女の子,2人も乗せ強引に頼み込む。

   汁粉は美味かった。コンロにナベ,ヤカンと各人が,枝で叩いたりして国道を降りて行く。
     僕も西沢が拾って来た週刊誌に目を通しながら下って行く。
     柔らかいカラーのグラビヤに女の子が写っていた。
   
平湯への径  ,


      トラック
   ツヅラでトヨエースを拾う。地元で馴れているとは云え,猛スピードで前の車を追い越して行く。
     紅葉の散り掛けた晩秋に,もうこの辺は雪に被われ,車の往来さえ絶えてきた。
     それを追い越す車は凄い。荷台は落とさんばかりに跳ね上げる。

      平湯
   深い山合いの安雲峠と平湯峠に結ばれた平湯。
     最近,観光ルートの拠点として開けてきたとは云え,静かな町並を作っている。


   僕の知る限りでは,大きな建物にバスターミナルがあるだけだ。
     そこも今日限り,来年の雪解けまで閉鎖だと言う。

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   ターミナルで石鹸,タオル付き¥100で温泉に入る。
     シーズンを終えた広い湯殿に伸び伸び浸かる。僕等だけの湯、高い天井に会話はこだました。
   冬真近な平湯の外を見ていると,
     谷間の枯木に雨の雫が落ち,暗い町並に冬真近を思わせる。
     この分では山は雪に変わり,冬篭りになっただろう。

     翌日、伊那で聞いた放送によると,乗鞍は,この日30cmの積雪があり,
     車は明春まで通行止になったとこ事。          
                                        
   総勢10名のメンバー

 





  乗鞍から伊那谷へ
    辰野で学生達と別れ,一人伊那の里へ,


  赤とんぼ  ,
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     秋の里,伊那谷,


      飯田線
   晩秋の乗鞍を楽しんで現役諸君と辰野で別れ,唯だ一人,飯田線に乗り込んだ。
     滑るよう過ぎ去る仲間の列車とは対照的に,ローカル色の濃い黒渇色の錆び切ったような電車である。
 
   薄暗い車内の照明が僕の顔をガラス窓に浮き出していた。
     そして見慣れているはずの伊那谷の田園風景も闇に閉ざされていた。
   乗客は疎らだが,それでも1人,2人と駅々に降りて行く。
     一つの名物になりつつある,あの半自動扉を押し開けて。戸口から冷たい風が流れ込んだ。

      駅
   伊那北では僕を含め4人が降りた。
     やはり遅くとも,賑やかな町だけに,僕の乗った区間では一番,乗客の降りたのも多い。
   カタコト揺られながら,ひと駅,ひと駅,縮めて来た電車も,自分で扉を開けると,
     新たに冷えびえする寒さが僕の体に忍び込んできた。

   先を急ぐ客は,もう見当たらなかった。
     僕一人が駅に取り残され,拾おうとしたタクシーさえ消え去り,駅前にはガランとした寒さだけがある。
   車を待とうか,それとも闇道を歩こうか,二転,三転と悩んでいると車が戻ってきた。
     何も考えず,咄嗟に拾った一瞬だ。手を上げると同時に車が僕の前で停まった。

      上牧
   天竜川に掛かる鉄橋を渡って県道を突っ走る。
     僕は行き過ぎてはならぬと上牧と聞いて,咄嗟に降りた。
   Uターンして過ぎ去った県道は,ライトの尾も消え,一寸先も分からず,しんやりする闇影が漂っていた。
     南部上牧らしいが,見慣れているはずの情景が,家屋も石垣,林も,思う影絵と合わさらない。

   足元は暗黒の闇に包まれているにも関わらず,頭上には万点の星が輝いている。
     美しさと憎さが交差した。
     新月の澄み切った空が,星を近づけ盲目に漂う農村の叙情が,伊那谷の香りに乗ってきた。

      闇の迷路
   分かっているはずの里道が分からない。もう30分も堂々巡りをしている。
     里の夜は早く,家屋から差し出す灯りも乏しい。
     ランタンを使いたいもザックと共に後輩に預けてきた。

   里道の唸りを思い出そうとするも,行き止まりだったりして,一考に考えが纏まらない。
     マッチを擦っても一瞬の明るさだ。炎が却って急激な刺激を瞼に与え,何の役にもたたなかった。

   灯りの点った農家を探しては家を尋ねる。
     味噌屋の平島さん宅はと三度目に尋ねたら平島さん前だったりして,
     知っているのに分からないところが,狐に包まれたようだ。
     教わる間々,記憶を追って真直ぐ叔父の家に向かった。

   教わった道は何度も迷い行き止まった所だった。そこは紐で通行止された区間である。
     田舎という印象が未開という馬鹿な考えを起こし,ちょっとした孤独感と盲目が神経を高ぶらせた。
   悪い病気でも発生し一区間,隔離していると連想し,そしてそこを避けていた。
     今はもう疲れと,どうでも良いと言う考えが,紐を跨いで進んで行く。


      伯父の家
   漸く一軒の灯りを見出した。記憶と一致した最初の所が,伯父の庭先である。
     庭を真直ぐ横切る径が家屋まで続き,灯りが点っている。
     そしてその上に大きなオリオン座が広がっていた。

   軒を潜ると伯母さんと秀ちゃんが,今か々と待っていてくれた。
     伯父さんは炬燵でもう軽いイビキを掻いている。
   遅くなった事情を話すと,名前をタクシーの運転手に伝えれば,
     真直ぐ庭先まで黙っていても連れて来てくれると,大笑いして聞いていた。
   僕のために料理してくれた鯉こくが熱く美味しい。
     もう先程とは嘘のようだ。暖かい炬燵に入り,ビールを注いで貰っている。

  裏庭の柿
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     縁側
  ぐっすり10時過ぎまで寝てしまった。
    障子を開けると廊下を隔てガラス戸から,もう昼の陽差しが漏れ出している。
  伯母さんが「良い天気だ」と言っていた通り,山でも会わなかった程の青空だ。
    澄み切った空気が天高く溢れ,脱穀したばかりの穀の匂いが漂っている。


   リンゴをもぎ取ると硬い美味みが伝わってきた。表道に面して経ヶ岳がバックを負っている。
     伯父さんが,一昨日,あの山にも新雪が降ったと言う。
   樹葉をいっぱい引締めるた経ヶ岳は,左へ大きく権兵衛峠へ落とし駒本俸へと続いている。
     山襞を,谷を刻み雄客な伊那前岳の裾、そしてその頂稜には薄すら新雪を抱いている。
     この広い眺望は,秋の明るい陽差しを受け,この縁側から望まれる。

      裏山の径
   僕は裏山を横切る小径が好きだ。
     裏庭に面したこの径は,何時もうっそうと年老いた樹林に包まれ,
     被さる樹葉の海に,一見,見逃しならぬものがある。
   落ち葉と黄葉(紅)に染まった径筋は,何の変哲もない普通の裏径だが,来ると必ず通る径。
     僕は感傷的にもなる,自然の深い素朴さがある。

   冬になれば霜が激しくなり,雪でも埋まるものなら,
     小さな僕だけのトレースが,雪帽子の樹海に現われる。
   春も又,若々しい新緑がこの径を被い,下草も陽が長くなるにつれ径を被って行く。
     そして夏は樹葉が猛威をふるい,刈り取られない下草は伸び放題になる。

   この径はしっかり踏み固められた径である。
     僕はこの径で墓回り以外,人に会った事は稀である。

      里道
   タバコを買いに外へ出ると,田の穂も刈られ,脱穀するモーターの音が,
     長閑な音色となって僕の耳に伝わってくる。
   その場を遠のくと又,別の庭先から聞え,
     その音色が澄み切った青空と共に一層,秋の里を深めている。
   巾4m程のうねり曲がった道は,軒に赤みを帯びたトウモロコシが幾つも吊られ,冬の仕度に忙しい。
     細い枝に柿の熟した実が,屏壁を越え道まで伸びている。

      柿取り
   僕は裏庭で,この家では通称一口柿と云っている柿を取って食べた。
     木も高く実も高い所になっているので,取る苦労も並みたいていの事ではない。
     幹に梯子を掛け6,7m先にある竹竿の端を手に握り,柿を落とすのだ。

   それもリンゴのよう丁寧に取るのではなく,枝を押し切るよう木を揺さぶり,
     力まかせに強引に振り落とす。すると頭から柿の雨が降ってくる。


      帰途
   車窓から夕陽を浴びる伊那谷を見た。
     それは紅葉と夕陽が重なって一層色鮮やかさを増し,谷いっぱいに広がっている。

   秋色美は秋空を造り,夕陽が一層燃え始めた。西の空を夕焼けが染め,谷を帳へと落として行く。
     そして夕陽に照らし付けられた焼け肌は,丘へ山へと駆け登り,
     最後の一点たりとも,この秋色美を我に示そうとあざ笑っている。
     もう東の丘にしか掛かっていない陽は,消えようとしていた。

                                                               山径,初冬の乗鞍岳,
                                                               山径,