雪中に木の根っ子に穴倉を求める 止まった時計と野宿の風の音 不肖な僕と苦っせぬ僕 清里より八ケ岳本峰. |
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| 八ヶ岳天狗尾根・・エレキを頼りに独り.尾根の取付きへと新雪を踏む s41年(1966年)11月22〜24日.単独 清里―天狗尾根―赤岳―行者小屋―美濃戸口.(厳冬期偵察と仲間の行者小屋に合流) 11月22日快晴.新宿12:30=16:49清里一20:00赤岳沢出合b1 新宿駅で大川の見送りを受け.初冬の暖かい日差しに包まれながら東京を離れる。 列車は夕陽が西の野に沈み行く頃.清里の高原に降り着いた。 落陽の早い高原は早い帳に霞み.これから向かう八ヶ岳の頂稜だけが西側の山陰に紅葉と黒陰の境を築き描かれていた。 燃える洛陽を前に西空を紅一色に染め.東側から望む岳は墨の切れ絵の如く陰り谷間に落としていた。 |
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![]() 阿弥陀南稜.無名峰より天狗尾根 |
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| 清里の里 清里駅前で軽くソバとも思ったがその間々地獄谷に向い歩きだす。 踏み切りを渡り清泉寮を過ぎると.とっぷり暮れた東の空には星が煌き始めている。 半月気味の月光が背に掛かり.自分の影を踏みしめ.牧道を歩むようなる。 初冬の乾き澄んだ風は弱く.気にせぬほどに体を抜けて行く。それでも触れ擦れる一風が一人旅の侘しさをそそっていた。 周りは全くの静けさ。日は落ち.黄昏の白みも失い.闇の朴道を見詰めながら黙々歩む。 裾野 幅広い里道を横切ると美しの森への小径が続いている。この辺は牧垣が崩れ掛かっていた。 その垣根には昨日降ったばかりの,冬走りの新雪を所々に積み残していた。 山風と合いなって一層寒さをかもち出している。 美しの森分岐手前で一本取った。 時計は6時半を指し止まっている。ゼンマイをいっぱい巻いてあるが? 休むと汗が体を冷やし闇が冴えだしてきた。 狗尾根末端 取付き地点地獄谷 もう新雪に被われている所の方が多い。 干ブドウを口に運びながら川俣川左岸沿いの林道を遡る。林道を埋める積雪は膝下で助かっている。 足の軋む音が妬けに響く。風になくそれだけ林道は閑散としていた。 河原から少し離れ.右へ大きくカーブする所で踏み跡は小径になった。 道幅が狭まり.両側の茂みをも狭まり視界を悪くした。雪面を照らすエレキの射程も足元近くに変わっている。 灯りだけが頼り.雪の重みで寝ていた熊笹が先へ入り込むと鈍い音を立て起き上がってもいた。 触れた熊笹が静寂さを破り.ガサガサと生き物のよう闇にうごめいた。 ほんの少しの未知へ発想が闇の怖さと一人旅の満足感を交互に感じては少し閃くいていた。 気侭に歩いている時はよく夜の化け物を想像したが今はその余裕もなかった。径を失い河原に降り立つ。 河原は積雪15cm前後.丸びをおびた石に淡雪が被い歩き辛し。 河原には微かな明るさのほころびが漂っていた。欠けだした月の光が仄かに照りつけている。 慣れると更によく分かりだし.歩き易い所をジグザグに切るが.磨石に足を取られる。又薄く張り詰めた氷に乗り.よくバランスを崩した。 エレキを頼って.とうとう水下に足を突っ込んでしまった。氷付くような寒気が背筋を走る。 野宿の風 河原は奥まで広く,目指す赤岳沢出合が分からなかった。そして時計の針は止まり.時刻も分からなくなった。 二俣らしき左岸.大木の根元に空間を見つけ.早々に野宿する。狭いながら居心地はよい。 雪に埋もれず.風の防御も万全にできていたようだった。 腹ごしらいをすると風の声がよく聞こえてきた。 ゴーゴー叫ぶ西風が一定のリズムを持ち,山を我もの顔に掻き回している。 山を越す烈風と谷へ落ち込む風が混ざり合い.頭上と違った音色が混ざり聞こえた。 上層は頂稜からの甲高い冷たい音色. 地表の低い音色とが絡み合っている。 寝床は入口が下流に向いているせいか.冬の声が風に乗り渦を捲き伝わってきた。 小キジに外へ出る。頂稜に望む権現の秀峰は月光を浴び,黒光りし暗い谷間に浮き出していた。 一陣の捲き風を受ける。近ずいてきた北風はもう山を越え,我が身にも襲ってきた。 身を振わせた根穴に飛び込む。・・動きだした時計.ビバーク完了20:00.消燈21:00? 樹林帯 尾根上.灌木帯11月23日.快晴 赤岳沢出合b1.7:30⇔8:20(引き返し地点),一8:45尾根取付一9:08分岐一10:55森林限界 一12:00大天狗下一12:35稜線⇔13:05赤岳. 尾根へ二重のロス 時間が分からないので明るくなってから動きだす。 一昨日,入山した仲間と赤岳山頂で.10時に会う約束をだがとても間に合わないだろう。 慌てて飛び出したためピッケルを置き忘れ.二重にロスをする。 赤岳沢の河原は倒木多く非常に歩き難い。早々に手前の小ルンゼから尾根に取り付く。 殆ど末端と云ってもよく.積雪は多くて20cm.倒木帯を越え正統派ルート分岐に立つ。 森林限界を抜け 大天狗と赤岳を望む天狗尾根 1本取って森林帯を抜けた。 眼の前に広がる紺碧の空を切り.大天狗が見上げられ.尾根を突き出す巨大な岩峰が現.れた。 顕著過ぎる岩塊が尾根を破り.眩い蒼空に突き上げている。 ふと金峰五丈岩を思うが.天狗は矢のように天に突き上げていた。 そしてその奥には眩む程の白さで,赤岳が大きく煌めき構えている。 快晴.無風.汗ばむ体に足はよく動いた。 大天狗.小天狗 川俣川東沢. 左上横尾山から続く飯盛山天狗岩 大天狗手前の壁は楽しそうなバンド沿いに地獄谷側を攀じる。 ややもすれば荷があるためショッパイ所だ。キスリングを降ろし偵察の末.上に立つ。 大天狗は赤岳寄りを進み.クレオパトラ・ニードルのような小天狗は地獄谷側を巻いて稜線にでた。 時間があれば楽しめよう。 |
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![]() 天狗岩と権現岳から続く三ッ頭 |
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| 紺碧の空 動きだした時計に自信はなく.陽の高さを計算したものの正午を回っていた。 仲間達は頂で好天に恵まれ待ちに待っただろう。愚かな.のんびりした出発が再会を遅くした。 一人だけの天狗尾根. トレースは麓から自分だけの径を築き綴って行く。 積雪は浅く快いラッセルの登行が続き.高度と共に視界はどんどん開けて行く。 もう頂稜も望められた。空は蒼さも膨らませ.気は踊りだしていた。 |
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, キレットより天狗尾根 |
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| 13:05赤岳山頂:10一14:05行者小屋c2合流. 感で動かした時計は驚ろきの5分遅れ 赤岳ピストン. ベルグラに雪を被せたような文三郎をアイゼンを外し降りた。 真下.行者小屋には仲間のテントが覗まれる。黄色いテントが一つ.雪原の白さに冴え浮きだしている。 仲間に会う楽しさが僕の足を速めていた。 意識した訳ではないが時計が止まり.出合小屋は暗く分からず野宿した。又動かぬ時計に苛立ちピッケルを忘れる。 何をしているのかと笑われる不始末を起こしている。 顧みて諦めが早いのか.ドライなのか.挫けるどころか.仕方がないと思う発想ばかり進み.違う楽しみを覚える自分がいた。 頂での再会は無理と分かると.却ってのんびり岳を楽しんでいる。単独のいい点と悪い点が同居した山行になった。 合流.L根岸sL松本m工藤.11月21〜24日 11月21日.新宿= 22日.茅野=美濃戸一行者小屋c1⇔14:10阿弥陀岳 23日.行者小屋c2. 7:05一9:10赤岳10:20一12:00硫黄岳:20一13:53行者小屋c 24日.快晴 (合流)行者小屋c3. 10:05一11:00小:15一11:30美濃戸=12:52富士見13:25,\540=19:07新
赤岳東面地形図 拡大地形図大門沢→須玉川→塩川→釜無川→富士川 立場川→釜無川 |