南アルプス北部地形図T地形図.山行表           甲斐駒ヶ岳Top   .

早春と晩春が混ざる鋸岳


底雪崩の巣で野宿
イーグルで底雪崩の地響きを聞く

   
                                     雪のない戸台
             春の崩壊する谷.南ア鋸岳
                   s43年(1968年)03月27〜31日.L新津賢(40卒).m松村進(3)

   我々クラブの執行部は春期ツァー合宿終了と共に後輩に譲り.企画運営を任すことになる。
     14日間の春期合宿を終え.その月の内に地元の新津先輩に誘われる間々.南アルプス.鋸岳に入る。

        戸台⇔角兵衛沢右俣―コル―風穴―第三高点
3月27日.
28日.
29日.
30日.
31日.
新宿=
塩尻=辰野=伊那北=戸台一角兵衛沢出合⇔右沢二俣. 一角兵衛沢1合目b. 南ア秋葉街道Top
b1一角兵衛沢ノコルs
c2⇔第二高点.一戸台h
h3=伊那市=辰野=新宿

     3月27日.新宿23:00=
        28日.角兵衛沢.曇一時晴. 4:58塩尻5:08=5:26辰野.飯田線:50=6:15伊那北:27国鉄バ=7:46戸台.

      乗り越し
   ちょうど目を覚めた時.列車は辰野駅に停まっていた。気だけは焦るが如何しようもない。
     再び動き出した列車はまだ帳に包まれた盆地にある辰野駅を横切りだした。乗り越す。
     運よく急行で直ぐ接続ができ戻れたものの.頭の中はまだ半ば眠っていた。

     (伊那北=戸台間.JR関東バス.伊那バス. 新宿=戸台間.京王電鉄バス)

    甲斐駒への頂稜
    3月で丸っきり雪を失った戸台川

     鋸岳〜甲斐駒ヶ岳
    96年秋.千丈中腹より

         戸台8:35一9:15白岩:30一10:45角兵衛沢出合11:25⇔15:05二股,引き返す.一16:05一合目一16:35b1
      角兵衛沢へ
   太平洋沿岸を襲った低気圧は山に降雪をもたらした。ただ戸台で期待してい積雪は少なかった。
     それでも.次第に増え出した残雪に気を良くし.角兵衛沢出合に至るまでに河原を一面に雪原化させていた。
     北沢峠への雪径を綴り.角兵衛沢出合でガレの土手縁にでる。沢は倒木が多く荒れていた。

   それに私も新津さんも.それ程鋸岳の予備知識は持っていなかった。
     ルートは右俣を詰めれば角兵衛のコルであり.縦走して駒本峰から黒戸へ抜けられる。
     計画はあるものの五万分ノ一地図以外.見ていない始末。その上.1/5万の地図に載る測量も古かった。


   1/5万ノ地図.第二尾根の派生地点が間違っており.もっと西寄り.又沢も単純ではあるが.多少の違いが見受けられた。


     角兵衛沢
   


   角兵衛沢出合の倒木帯

      入山初日,沢をさ迷う
   戸台からの長い河原道を歩み角兵衛沢出合にでて,コルへの取付きルートを見間違い右俣の右沢を詰める。
     後で思うに錆びた針金が沢を塞いでいるもにも係らず.丁寧に潜り沢を直上していた。

   傾斜は増しラッセルは深くなり,とうとう行くてに雪壁が現れた。第二尾根取付きの大岩を目指していた。
     大岩下を右にトラバース気味にラッセルを続け,急な尾根やルンゼを越えて,漸く第二尾根の主尾根にでる。
     左手.正面に25mはあろう氷爆が物凄いスケールで塞いでいた。つるつるの青氷が巨大な壁を築き.行動不能を示していた。

   右手地図にない藪混ざりの痩せた支稜に逃れるも.積雪の深みと凍雪に行き詰る。
     腕力の消耗は甚だしく.主尾根に乗っても岩壁帯が現れ.先は知れていた。4時間費やした遡行も断念せざる得なかった。

   前進不能でこのルートを下降する。そして針金の所.出合まで戻った。改めて周りを探ると少し下流側に新たなルートを見い出した。
     下った取付きをよく見るとハリガネがだらけで.入山禁止を示しているようだった。
     帳は早い。周りに目が慣れ.暗くなり見えなくなるまで角兵衛沢を登り詰めている。


    鋸岳南面概念図
  

    角兵衛沢右俣
  









右ルートは入山日
  第二尾根に入り込む.出合まで戻りビバーク



        鋸岳と角兵衛沢
   角兵衛沢でビバークの朝

    3月29日.晴・・角兵衛沢のコルへ
      Bs1. 8:35一9:30森林限界:50一12:15奥の二股:28一13:40角兵衛沢ノコル.イーグル2.

   昨日は帳が完全に落ちてから野宿した為.目覚めは遅かった。谷間の明るさで目覚めている。
     主尾根の西側の沢沿いで,更に両岸が狭まった谷間で夜明けは遅く.角兵衛沢が明るくなるには日の出から大分時間が過ぎていた。
     焦る気もなく朝食を済まし.アタックへと事を進めていく。もう迷う心配はなかった。

      角兵衛沢
   快調に石室を過ぎ広いゴーロ状にでる。もう間違ってはいなかった。谷は狭まり.雪に揉まれ高度を稼ぐようなる。
     急に勾配が増し一種の森林限界になる。背下からは遥かに戸台川が横切り.角兵衛沢が足元から急激に落ちている。
     対岸の馬ノ背の雪稜には千丈ケ岳がダイナミックな巨峰を望かしていた。

   澄み切った冷たさに快い陽射しが谷底に射しだした。昨日のことも忘れ初春ののどかな一日が始まった。
     狭い空間に空は蒼く雪は白い。それも初春の鮮やかさを映し出している。

            鋸岳と第二尾根

   角兵沢コル.直下

      頂稜コルへ
   モーレン状の沢口より30分.沢底の雪も深まり.私達を挟み双壁がそそり立つようになる。
     時折.塵雪崩が頭をかすめ.屏風の谷間に小石を落している。乾いた音がカラカラ落ちてきた。もうデブリもしばし臨まれる。

   硬い雪塊は歩き難いが潜るよりましだった。急な深雪帯を抜けると奥の二股にでる。
     ここは右奥の支稜を越え.昨日登った左沢氷漠の真横にあたる。ルートは更に直上し遡ればコルにでる。

    思いのほか狭いコル. 甲斐側右上は八ヶ岳

   前日はルート違いからビバークして一日目を無駄に消費した。角兵衛沢ノコルにでて早くも甲斐駒への縦走を諦める。
     時間を掛けイーグルを造り.鋸岳ピストンに変更している。

      イーグル
   吹き溜まりで積雪の多いコル.昼食は実に美味かった。角兵衛沢ノ頭方面を入口にし.雪洞のようなイーグルを造る。
     少し湿った雪表を踏みつけ床を造り.締まった雪はブロックを作るに適していた。

   大きな雪塊を抱きかかえ円を描き.ブロックを積み重ねると円錐形のイーグルができてくる。
     最後に頭を詰め.口を開ければ小さなコルに立派な宿ができあがる。春雪と藪多き痩せた岩稜にイーグルが築かれる。

      八ヶ岳の雲海
   雲海をバックに燃える夕日は天空を紅色に染め.八ヶ岳連峰を背に押し寄せる雲海を切って.洛陽のその勇姿を映し出していた。
     帳が落ち峰々は濃さを増し紅色に燃えてから黒紫の影へ移るよう燃えきっている。風もなく静かな.それでいて暖かい日没を迎えた。


    角兵衛沢のコルとイーグルの残骸

      底雪崩
   突然静寂な闇山に雷鳴が轟く。一瞬にして空気が割れ.落雷のような大音響が響き渡る。
     そして雪上に地響きを巻き起こし足元から突き上げてきた。縦揺れが続きドンと突き上げる振動に体が踊る。地震か? 直下型か?
     何が何だか分からず異様な緊迫感が体を走り鳥肌を立てていた。

   雪崩だ。今朝.遡った沢だろう,何かが起きたのは確かだった。
     揺れが止まると同時.不気味な雪塵の粒が雨のようこのコルの頭上にも舞い込んできた。

   このコルの下に起きた雪崩に違いない。
     底雪崩だ。一時が経ちコダマが起こり.響き渡った雪崩の協奏曲が暫く続いていた。


     風穴より
     
    千丈岳馬ノ背

    翌4月.再び千丈.駒ヶ岳へ
    甲斐駒と黒戸尾根

    3月30日曇後雨,第三高点と下山,

       角兵衛沢ノコルs2. 6:12⇔6:37第二高点一7:15風穴一7:30第三高点8:03.一8:57
       コルs10:58一13:00大:45一14:25分岐一14:14出合一14:57戸台川堰堤15:10一15:54戸台.橋本山荘h3
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     万点の星
   昨夜.星が綺麗だった。星座も判らぬ程の星屑が煌き輝き,流れる星が通う。
     万点の星に惚れ.イーグルの入口を少しずつ削り.ついにはブロックの天井を青天井の大パノラマに変えていた。
     洞窟のように雪塊で囲われているが天井はない。

   シュラフから覗く星空は寒さより自然の神秘が我ながら勝っている。

     それにしても風もなく暖かい夜を迎えた。

     頂稜へ
   鋸岳第一高点,甲斐駒がどんよりした雲空を分け.千丈ケ岳.北岳がここでは鋭い雪壁を持って灰色に覆われた空間に突き上げている。
     南側はV字に切れ込んだ小さな鞍部になってをり.第二高点寄りの大ギャップに対し小ギャップと呼ばれていた。

   小ギャップは底から数mで通過は容易だった。第一高点寄りのギャップからは第二尾根が岩稜となって戸台川に落ちている。
     その第二尾根の中腹北側の側稜.角兵大岩のルンゼに昨日はでてしまっていた。

   綺麗に整う三角峰が幾重にも広がり.空とを分け合っていた。
     ただ向かいには駒ケ岳の大き過ぎる山容を従がえている為か.鋸岳は阿弥陀岳南稜のような小陣まりした感じを起こさせていた。

      風穴.直径2m程

      鹿の窓
   鋸岳頂稜を突き上げている岩穴で,一般に風穴と呼ばれているがこれは登山者による命名で.信州側では古くから熊穴と呼ばれていた。
     熊穴沢という名称はここからでている。

   第三高点,熊穴沢ノ頭と甲斐駒は断念している。イーグルに戻りアイゼンをワッパに履き替え.角兵衛沢ノコルより下山した。
      再び角兵衛沢を下れると意気揚々としていた尻セードは誤算となった。昨夜の雪崩は谷底にデブリを惨たらしく造りだしていた。
     凄いデブリが山のよう盛り上がり.谷を埋め尽くし.渓相を変えていた。泥土に枝木が混ざる汚れた雪塊は歩き難し。

      再び雪崩る
   突然.またもや落雷のような大音響が起きる。今度は双壁にそそり立つ角兵衛沢の核心部の中にいた。
     再び空気を割り,地響きが足元の雪面を揺らがさせてる。耳鳴りする轟音が深い谷合の頭上を走り抜けた。
     谷底で目に映らぬ何かが起こっている。
咄嗟にピッケルを深く刺し確保した。

   雪崩だ。隣りの沢らしい。1つコブを越えた向こうで起きたのは確かだった。
     支尾根を越え不気味な雪塵を撒き散らし.頭上から土粒混ざりの雪粒が塊りとなり流れ込んできた

   異様な緊迫感から開放され安堵するも.静寂な谷間に戻るまで一時.何かを見付けるようジッと構え動かずにいた。
     昨夜と同じ春の底雪崩に違いない。
一夜にして.一変した谷。冬から春に装いを変えた谷。
     枝沢の底地を抉り崩壊した雪渓は谷を泥土と雪塊の山に変えていた。ここも今から春の荒れた谷底になる。


       下山時.角兵衛沢の岩室にて
         ,
   戸台川.下山は雪に埋まる

      戸台へ
   ポカポカ穴を開けてきた踏み跡も森林限界(河原)上部200mのガラ場でワッパを解いた。
     春雨の降る中.戸台へ下る。もう河原は入山の時の大雪原も下るにつれ疎らに変わっていた。ただ冷たい雨だけが降り注いでいる。
      2週間経てば5月の連休になり.2年強化合宿がある。今回は同じルートで入山し.千丈ケ岳・駒ケ岳をピストンして鳳凰山へ抜ける。


   角兵衛沢のコルで.今年OBになった新津氏

   下山日朝.戸台で

        3月31日快晴. 戸台h3. 10:51一12:10入舟=12:14伊那北16:05=辰野=20:35新宿.
      戸台の山荘
   春の暖かい日差しがここ戸台の宿を浴びさしている。昨日と違い.河原に流れる清流もキラキラ輝き.青空には白雲が棚引いている。
     山荘の窓を開けると.庭先は満開の山櫻が快い薫りを漂わしていた。2食付き¥700

      車窓
   完走出来なかったが1つの頂を踏みしめ.天気に恵まれ山を下りる。のどかな山村と.うららかな田園を縫う乗合バス。
     湖畔を走り.仰ぐ峰々は奥高く白稜を望かしていた。5月の連休には又.あの雪白き岳を訪れる。
     バスは新緑被う谷を潜り.伊那谷を降りた。高遠を過ぎた伊那の街は旧ひな祭りで賑やかさを増していた。

      春の鋸岳                                      OB.新津 賢
   高曇の鋸岳第一高点にMと私は手袋を取って、硬い握手をしていた。
     その時、何年か前の晩秋の澄みわたった空のもと,同輩のNと二人でこうして,白峰,千丈と南アの雄峰を見つめていた事を思い出した。

   Mとは何度目かの山行であるが、二人だけの山行は初めてである。
     戸台からの長い河原道、角兵衛沢の出合でコルへの道と間違い、沢をつめてしまい、
     20mの氷結した滝と深いラッセルをせなばならぬ支稜へと二分する地点に来て、私達はゆっくりと休み、タバコをくゆせながら考えた。

   河原を歩いている時は、山に入っている悦びだけで満足していたが、今はちがう。私達はピークと云う目的を持っている。
     今からでも遅くない、私は決断した。4時間かかって登ってだ沢を駈け下り、分岐を見つけ、暗くなるまで登った。

   翌朝、天気も上々で気持のよい出発だった。樹林帯を抜け、デブリの多いカールをバテながら、やっと着いたコル。
     小さいコルから赤くなりかけた八ヶ岳が美しかった。ここでイーグルを作り、2000mの雪の中に寝る事にした。
     夕飯の仕度をすませ、赤から紫へ変化して行く山の神秘に、私達はしばらく心をうばわれて見つめていた。

   目的を達成した私達は、いつまでもここに留まる事は出来ない。暖かい山小屋へ急いで帰る事にした。