| 谷川岳西黒尾根Top . 冬の谷川岳西黒尾根W 荒れる山.表層雪崩 サブリーダーとして雪山への歓び |
| 吹雪の谷川岳西黒尾根V.41年(1966年)12月10〜11 L田中正幸(4).sL松村進(2).m保坂多恵子(3).松本弘美(2).山田雅一.三田誠一(1) 冬山の経験はまだ1シーズンしかないが.その違いが歴然と現れる。 まして先輩と後輩に挟まれ.同じ時期の谷川岳を目指す。又天候以前に雪山への歓びがある。 12月10日晴. 上野23:58= 11日風雪. 土合4:47一ケーブルイン小屋発7:00一12:00トマノ耳一12:20肩ノ小屋13:30一16:10ケーブルイン 吹雪 雪のちらほら降り注ぐ闇夜の上越線.土合駅はプラットホームの灯りに照らされ.薄暗いホームを浮き上げさせていた。 暖房の利き過ぎた列車から降りた僕には.それが幻な姿に思われた。 車内の暑さがセイターを脱がせ.袖を捲り上げ汗さえ流し.熟睡出来なかったせいかも知れない。 灯りに照らされた雪粒が.低く垂れ込んだ重い雪雲から絶え間なく流れ落ち.その周りだけを明らめている。 そして一時のきらめきが又闇の中へ消えて行く。僕はその見えざる雪の中に踏み込んだ。 駅前から長い行列が続き.雪道の踏み固められた凍雪に,何度も足を取られそうになる。 積もるより踏み固められる方が早く.ロープウェ前の広場では凍雪に幾人もが足を取られていた。 山ノ家は登山者で溢れている。 屋根と壁だけの大きな物置小屋のような家屋,少しでも寒さを防ごうと炊事に精をだす者や山支度に余念のない者達が 慌ただしく動き回り.まるで駅の待合室のようだった。 僕達は一番隅に陣取り早目の朝食後.一眠りして明るくなるのを待った。 今回のメンバーは昨年一緒に登った田中先輩と.冬山初めての後輩は山田.三田。 そして私の良き先輩である保坂嬢に.同輩松本嬢もいる。 土合山ノ家は1泊2食¥700.素泊り¥400.通年 西黒尾根 ![]() |
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| 入山 荒天で見合わせる者が多かったこととスキー客が多かった為,山に入ると以外な程人気は失われていた。 尾根の取り付きは相変わらず階段状の急登が続くが鉄塔を過ぎ尾根に乗ればなだらかになる。 視界なき雪降る雪尾根は先行者のトレースを直ぐさま埋め尽くし.新たにラッセルをせねばならなかった。 膝まで潜るラッセル.まだ馬ノ背手前だが風を感じるようなる。 冷モチは歯みごたいがあり美味かった。互いに齧り合い半分づつを摂る。 疎らになってきた樹林帯に冬テンが一張.張られていた。僕達は夏径に沿って.その右端を通り抜け馬ノ背を越す。 降雪は横殴りの吹雪に変わり.トレースは完全に消されていた。 雪稜 雪山の踏み跡なき径. これが私の憧れであり理想だった。自分達で築くトレースこそ.頂での歓びも大きい。 膝前後の積雪を押し分けトップを歩む。喜び勇んでいる僕の心は皆を踊らせていた。 前進する顔そのものは真面目であるが。 リーダーの田中先輩から.スピードを少し上げてはと忠告を受けた。 僕は後輩の初めて付けるアイゼンと女子の為.最後まで同じペースで望みたいと頼む。 任された僕.嬉しく思うと同時.又トップを歩みだしている。 数少ない休みに歓びの声が上がる下級生.保阪嬢.松本嬢の目。みんな生き生きしている。 自分より友の喜びが嬉しく思えた。後輩を引っ張り上げる喜びを感じだしていた。 僕達は着実にリッジを登り.傾斜が落ちるのを感じ取っていた。頂の肩にでる。 緩い雪原状の斜面はラッセルを少し深くした。 |
, 西黒より谷川岳 |
| 山頂 馬ノ背でテントを通リ過ぎた時から.今だ仲間以外.誰一人合わず声さえ聞こえなかった。 今日は数パーティしか登っていないようだ。 松本嬢が雪面に自らの名をスピッツで描き.汚れない悪戯をしている。 強風にあおわれ如何にか煙草を吸った。吸うより風に流される方が多い。 頂. 後輩の喜びと先輩.同期.松本嬢の嬉しそうな顔。 リーダーからの握手を求めたれた時.今の感動が通じているようで尚更嬉しかった。 頂への歓びより.仲間の歓びを深く感じている。素手での硬い握手.凄く充実した気を持っていた。 肩ノ小屋.相変わらず汚いが誰もいなかった。熱い紅茶が腹に伝わり体全体を暖かくする。 締め付けるアイゼンを解いた。 食後のゼザートは差し入れのチョコレイトを一箱.コッヘルに突っ込み.妙な味のココアを飲んだ。 苦いような甘たらしいような味がする。 谷川岳肩ノ小屋.素泊のみ¥500.7月上旬〜11月下旬 |
, 淡雪被う西黒尾根 |
| 下山 外に出る。入口の踏み固めた硬雪ものトレースも消え.歩めば直ぐ新雪で潜るようなる。来た時のトレースは清く消えていた。 そして相変わらず降り続ける雪粒は知らずして.ジワジワと積もっていく。 責任 まだ冬山の経験は浅いとは云え,心は満ち足りていた。視界が0にならない限り.トップを歩む余裕に溢れていた。 浅きラッセルが快い.まして新雪の淡雪にに包まれている。 田中先輩は最後まで任してくれていた。時折.忠告を受けるも.自分の意見を伝えると頷いてくれている。 責任が強くなると同時.任される自分が嬉しかった。 後輩にアイゼンのヒモを改めて締め直すよう伝え,山を下りた。 降ったばかりの乾雪が足元からサラサラ落ちた。綿のような雪粒が被っている。妙に落ち付かぬ間々下り続ける。 表層雪崩 ザンゲ岩を過ぎ.僕が築いたラッセルどうり下りてきた来た松本嬢の足元から雪崩が一瞬にして起きた。 原因は僕がペースを落としたので.2人の力が一ヶ所に加わり作用したようだ。 彼女の足元から尾根筋の雪面に並行して.縦に長い亀裂を一瞬にして走らせた。 そして長い亀裂が停まると同時.間を空けず.割れ目を頭にして皿状になった巨大な雪のプレートが滑り落ちた。 崩壊せずザンゲ沢へ落ちて行く。これらの動作は連動し一瞬の間で雪崩た。 胆を冷やされる思いで唖然と見送る僕。音もなく滑るよう雪のプレートが落ちて行く。 それこそ舐めるよう薄い表層が下流で裂けながら割れ.雪煙を撒き散らし落ちて行く。 一瞬.亀裂が走り,走り出した切れ目が音もなく.デカイ雪表を築き,皿のように滑り落ちた。 崩壊した雪塊は大きな淡い泡のような雪煙を巻き上げ.更に沢一面に大きく広がっている。 足はビクとも動かない。否や動けず.全員がスローモーションフイルムを観るよう.雪崩の動きを見送った。 雪上に乗れば一緒に乗って行けそうな.浅い層の表層雪崩だった。 無事であった僕等. 忘れていた恐怖の感覚が顧み.その下の急斜面は馬鹿と思える程.リッジ沿いを確実に降りた。 憬雪小屋手前である。 胸までのトラバース 森林限界.手前までも同じような条件が続く。 古い積雪の上に新雪が積もり.締まる硬雪に真綿のような柔らかい新雪を更に積らしている。 ガスは雪と共に濃さを増し.数m先が分からなくなる。短いトラバースは肩まで潜った。 三方,雪に閉じ込まれる。どのようにもがいても始まるものではなかった。 少しルートから外れたようだ。 ただ.じっくりと胸で雪面を圧迫し.雪面と胸の間に少しの空間を造り.深く膝を折る。 そして腹の雪面を押し分け.足先を数cmだす。5.6mのトラバースだが前進の割りに.労力と時間の費やした。 息が上がり鼓動は高鳴り.喘ぐ力が著しい。漸くリッジ沿いにガンゴーとの分岐にでた。 無言で見詰めていた先輩と.何も分からぬ後輩がいた。 ここでも無言でいた先輩に.僕はテストを受けているような気持ちを起こされていた。 凱歌 馬ノ背を越えアイゼンを脱いだ。後は女子が居るにも関らず飛ぶように駈け降りる。 闇との競争があり.又新津先輩にかって教わった言葉,「下りこそ足の力となる。」を思い出していた。 旧道にでて.降り続いていた雪も止んだ。 闇夜の中.氷付いた林道に微妙なバランスを使い.急に重くなった足取りで土合に向かった。 もう.この山径には僕等以外.誰もいないだろう。 エレキに照らさせた足元を見詰めてると.今日一日の山行がジワジワと湧き始め,心を踊らしていた。 充実感と程良い疲労に体は酔い始めていた。 先輩の最後の言葉.「ご苦労さん!」が.何とも云えぬ,温い篭もりに思われた。 そして後輩にも,僕は「ご苦労さん!」と同じ言葉をだしていた。 冬期,湯檜曽川周辺地形図と谷川岳周辺雪崩図. 上越国境周辺全体地形図.山行表 雪と山(十二月の谷川) 山田雅一 土合の駅を降りると雪であった。久しぶりの見る雪だ。駅はスキーシャーでごったかえしていた。 ここも東京と同じラッシュだ。ただ雪だけが違う。社会の象徴のような群から抜け出し,登山口に急ぐ。 カリカリに凍った地面に靴のビムラムが滑る。やっと登山口,と思ったら,またスキーヤーの群だ・・・。 出発。オーバーズボンにオーバーシュウズ。誰かが云った。「まるで宇宙探検隊だ」。 初めてのアイゼンにちょっぴり身がひきしまる。サラサラの新雪には何の反応もないようだ。時々岩にぶつかる。 いい音だ。ちょっとばかり心配だ。ここが借物の弱みか。自慢じゃないがオール借物だ。 雪はだいぶある。木と雪と,そして枝が空間を色どる。枝と雪のコントラストが,かって見たことのない絵模様を作り出す。 トレースは十分ある。時々すれあうアイゼンに注意しながら進む。快調だ。 急に風が強くなった。横なぐりの風が右頬を打つ。氷の粒のように肌を突きさす。 枝の上の雪も飛ばされている。稜線も近くなった。ピッケルを手に取り体勢を整える。 ピッケルを力いっぱい握りしめる。胸の鼓動を押さえることが出来ない。 突然目の前が開けた。風はますます強い。その中を進む。目出帽にも雪が張り付く。 髪の毛にもつららが下がる。まつ毛にも氷が。時々突風が巻く。前を行く友の姿も消える。 目を開けていられない。思わず歩がゆるむ。一抹の不安。 そんな時.天神方面で花火が鳴る。何か馬鹿にされているような,でもそれでいて落着きをとりもどしていた。花火様々だ。 すでに数パーティが下ってきた。遅い。ちょっと不安だ。吹雪はなおも続く。 ヤッケのフードもカチカチ。皮手袋もカチカチ。ピッケルを握る手もにぶる。ピークは近い。 しかし,やせ尾根に気は緩められない。踏んだ雪が雪崩を思わせる。顔を上げて景色に目をやる。 いったいどこまでが山で.どこからが空間なのか。とにかく自分を除いた全ての世界が真っ白だ。その白い世界が続く。 時間の経過がすごく遅い。と,何か黒いものが・・・・・小屋だ。 ピークは目の前だ。思わず顔がゆるむ。ラストクライムだ。はやる気持をおさえてトレースを追う。 まだだ,でも見えないけれどピークは目の前にあるに違いない。かすかにピークの標柱のようなものが見える。 歩が早くなる。トップがたどり着いた。まさしくピークだ。かじかむ手で友とタバコに火をつけたのを今も印象的に思い出す。 夏のピークとは全く違う。まるで別の山だ。そこはただの白い世界だった。 この後,山小屋に入り,下ったのですが,どうにか無事だったようだ。 前のパーティから30分程遅れたためレースが消え.苦労したことだけつけ加えておきます。 部報「峠」3号より |