初冬の木曾御嶽T 初めての冬山 「中央西線」で3000mの高峰へ 雪氷に覆われた巨大な火口群 ![]() 北八ヶ岳.天狗から朝靄に浮かぶ御嶽山 |
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| 「中央西線」に乗り.氷と雪の木曾御嶽山. .s40年(1965年)11月19〜23日 L新津賢.sL中山司(4).m田中正幸.長谷川武夫(3).根岸哲夫.竹永靖正(2).三浦俊雄.田沼栄一.松村進(1) 黒沢⇔中の小屋―御嶽山. 冬山 初めての冬山. 憧れと不安が絡みより大きな望みを抱いて入山した。 アイゼンにピッケル.ワッパと全て借り物である。ビニロンオーバーシューズ@700.耳宛購入. 初めて触れるアイゼンバンド.部室で自宅で慣れるまで幾度も靴に合わせた。 こんな重い物を靴底に付ければ転ぶのは当たり前にも思えた。引っ掛けないだろうか? 11月19日.新宿= 20日.塩尻=木曽福島=黒沢一中ノ小屋hc1.2.3 21日.中ノ小屋bc1⇔九合目.雪上訓練. 22日.中ノ小屋bc2⇔剣ヶ峰. 23日.bc3一黒沢=木曽福島=塩尻=新宿 |
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, 中ノ小屋 |
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| 11月19日. 新宿22:35= 20日.快晴 5:15塩尻.中央西線6:26=7:44木曾福島8:10.おんたけ交通=8:50黒沢9:00一10:40三合目10:45 一12:35八海山荘14:45一15:50中ノ小屋bc1. 黒沢までは年間を通して定期バスが通じているが.夏場以外は夕方に限って1本,三合目半.屋敷野中ノ湯本館までバスが入っている。 ただし1月7日から25日の寒参りシーズンには一日4往復の便があり。大体は松尾滝付近まで登っているようだ。 入山 屋敷野からなおも白川に沿いをゆるく登り.赤岩巣橋を渡ってから車道と別れている。 そして松尾滝の小屋の石段を越えると北側の唐檜の尾根.倉越原の台地にでる。 昔は山岳スキーのメッカとして栄えていたらしい。今はすっかり寂れてしまっている。 ここは高原状の草原帯であり.行く手に木曽御嶽の全容を現していた。雪煙を巻き上げる岳はまだ遥かに遠いい。 八海山神社を過ぎると五合目千本檜小屋にでて.樹林帯の尾根通しになる。 ジャリ道から落葉径に変わった参道は高度を上げるに連れ.斑に雪を付け雪径へと変わってゆく。 長い一本の径.腐った雪も締まりだし.手はかじみだすも背には汗を掻いている。 冬装備の分が荷を更に重くし肩を食い込む。全てが雪中にある。登る径筋の枝木も岩も雪に覆われた。 まだ疲労より先への憧れが勝っている。浅いラッセルを踏みしめ.帳の落ちる頃.六合目中ノ小屋に着く。 「来たぞ!」と心が弾む。 確りした小屋だった。雨戸を外し床下から入り込んだ。これからここをベースに頂への登行が始まった。 小屋の怪奇 小屋は広い.室内に入ると暗い闇の中に。うっすらした明るみが慣れると周りが見えだした。 その一隅を借り.コンロを囲み皆が集まっている。 幾つもある部屋はシーンと静まり返り.冷たい空気の固まりだけが動かず支配していた。 誰も他の部屋へ行く者もいず.氷付いた別の空間を作っていた。 僕等が陣取っている部屋に入る時.奥の部屋がちらっと覗まれた。偶に何かが動く気配がある。 その何処からか漏れる.薄い層の明かるみも夕暮れと共に失われた。 ローソクだけの明かりになると奥の部屋は全くの闇になった。それなのに何かが動く。髪を撫でるように。 友に語るも.聞く耳を持つ者は誰もいなかった。 シュラフに入っても気になってしかたがない。明日を考え早く寝ねばと思うも.頭の片隅から離れなかった。 思えば思える程気に掛かり.得体の知らぬ何かがいる。お化けか? 翌日午後.勇気を絞り出し隣りの部屋を探索する。物が落ち.床に転がる物を避け.索莫とした部屋に抜けさしで入り込みとあることに気が付いた。 冬篭もりで雑然と物が転がる中.鏡が1つ向かいの棚にある。それが何処からかの光を受け.微妙な動きを示していた。 傾き斜めに置かれた鏡は位置からして.自分の体は写らない。光だけが何処かに反射し.幻じみた動きを作っていた。 我ながら凄い発見をしたようだ。やはりお化けも亡霊もいなかった。 もう僕は気にすることもなくなった。 11月21日.快晴後曇 中ノ小屋bc1. 8:15⇔9:40八合目10:30一11:30九合目,雪上訓練12:10.一12:40八合目14:00一14:35hc2.
中ノ小屋前で1本 森林限界でアイゼンを付ける登行 窓もない薄く暗い小屋から雨戸を引き外し外に出る。外は眩い光に雪片が煌いていた。 朝光が反射し目もくらむ明るさだった。これからのアタックに緊張と興奮が絡み合い.心は踊っている。 膝のラッセルを漕ぎ.森林限界を越すと体も温まりだす。目の前には雪白く煌く岳が我々を待ち構え広がっていたる アイゼン 何度も都会で練習したアイゼンを付ける。 絡みがないよう慎重にバンドを締めた。少しギコチないがスムーズに靴底に納まっている。 ピッケルは残雪期.何度かの山行で構えはできている。ただ初めてのアイゼンが靴の底に爪を何本出していた。 冬山装備一式のガリ股の歩行が始まった。 九合目.雪上訓練 |
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,滑落停止の反復訓練. , |
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| 雪稜 直ぐクラストした雪面になる。 巾広い雪稜が眼の前を被い快い登行に心を踊らした。でかい岳だ。 尾根から稜の一部になりアイゼンは利き.転ぶ心配もなくなった。ツァケのきしむ響きが心地良く体に伝わらす。 山稜は半端.凍った雪面を反射させ.紺碧の空と境を築いていた。 何も考えることなく登行を楽しみ味わう。ピッケルを持つ格好もさまになってきた。 歩行自体が楽しく嬉しかった。空は何処までも蒼く深い。 雪上訓練 崩れてきた天候に頂を諦め.九合目で雪上訓練に変更。 6月から残雪を利用して何度がストッピング訓練をしてきたが.今回は雪質と傾斜が違っていた。 硬雪の斜面の上には新雪が積り,傾斜には滑るスピード感がある。仰向けに滑るとスピードは増す。 体の反転を利用して右手で確りトップを握り,スピットを雪面に刺す。なかなか1度では止まらない。 足先を上げ.体をエビのような弧を描かせ.支点となるよう全体重をトップに乗せると深い溝を作る。そして落ちるスピードは鈍くなる。 止まらなければ又胸を張り.その反動で刺す。この繰り返しが続く。 じっとしていれば肌寒いも汗を掻く.緊張の後の登りがきつく.休む間もなくストッピングを繰り返しす。 以外と強い傾斜にストッピングが快い。すること全てが冒険に満ち我を忘れ戯れた。 御嶽山 |
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雪氷のアタック |
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| 夜のコンロ 仲間はラジウスとホエーブスを並べ炊事に精をさしている。その隅で天気図を付けているとホエーブスのコンロが漏れだした。慌ててその場を離れる。 ラジオに集中していたので.何が起きたのか最初は分からなかった。皆が騒いでいる。 白ガソリンが漏れたらしい。薄くらい場所でバタバタ動き回っている。「消せ! 消せ!」と声が聞こえる。 灯油のラジが快い響きをだす中.分解していたホエーブスから漏れだしたらしい。 「綺麗に拭き取るまで煙草を消せ!」と右脇から聞こえてきた。 僕は最後まで先輩の記入する天気図とにらめ合わせ.電波に耳を傾けていた。ホエーブス大600ccと白ガソリン. ラジウス大1000ccと灯油. ホエーブス ホエーブスはこの山行で初めて使用する。ホエーブスはオーストリアのウイーンにあった金属製品メーカー.MJRの製品ブランド。 ガソリンを燃料にするため火力が強く,ハンドルを回して火力調整ができ.更にノズル掃除用の針がノズル内部に組み込まれているのが特長。 ホエーブスはギリシャ神話の「火の神」と呼ばれ.型状からダルマと呼ばれた。 18日16時.高層天気図 11月22日.快晴 中ノ小屋bc2. 6:55⇔8:05八合目9:10一10:20御嶽山11:20一11:50雪上訓練14:30 一15:05八合目15:15一16:00hc3 |
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![]() 木曾御岳山.山頂ヘの最後の一本 目指す剣ヶ峰へ |
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| 昨日は低気圧の影響で九合目で打ち切ったが.今日は登山日和に恵まれる。 コバルトブルーに一線を引き浮き上がる頂は煌く雪氷が銀色に跳ね反射させていた。眩む瞳.今日もツァケはよく利き. 軋む音と半分程まで沈む感触が快い。欠けた氷片が谷間へ転がり落ちて行く。冬山初めての頂へ. 御嶽山山頂 剣ヶ峰紺碧の空を仰ぎ頂に立つ。湧き上がる心は押さえることが出来なかった。素手の硬い握手が尚更気を掻き立たせていた。 今3000mの頂にいる。 山頂での憩い山頂で風を避け根岸先輩.私.竹永先輩.三浦.田沼 |
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小屋裏で風を避け大休止.ツエルトを被り頂の余韻を楽しむ , |
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頂火口の二ノ池はくびき遠く槍.穂高連峰を摩利支天峯から望む。 登頂後は再び十分に雪上訓練し中ノ小屋に戻る。ストッピングを繰り返し.雪泡立つ小屋への滑降が面白い。 下山、黒沢の河原にて・・田沼.私.三浦と長谷川.田中各先輩11月23日快晴. 中ノ小屋bc3. 8:03一11:05黒沢11:40=12:20木曾福島12:40=13:55塩尻14:45=19:15新宿 冬山の凱歌に酔い山を駆け下りた。雪は消え泥径から長い裾野が延びている。 風もなく暖かい陽差しを浴び.11月下旬とは思えぬ下山となった。袖を捲くり重い荷も軽く山を下りる。 葦の茂る河原に降りる。そして最後に御嶽山を仰ぐ。 初めての山行 出発前夜.「初めての山行だ。3000mだ。そして雪山だ.雪山だぞ。」 ザックが重い.手がしびれてバカになった。もうバテたのか.こんなにだらしないとは思っていなかった。 自惚れていた。自信がなくなった。自分がやになった。 (大体.俺は本当に山が好きなんだろうか?一人で考えることからにげだしたんじゃないだろうか? 自分を性急に限定させ安心したかったのでは? それともコンプレックスの反対照明として山に憧れているのではないだろうか?) 黄色いポンチョがヨタヨタ歩いた。 21日.山は吹ぶいた。山には何の理屈もなかった。白い山が俺を圧倒してたちはだかった。 雪と風が激しく俺にむかいふきつけた。山のほえる声。俺はふるえあがった。夜.すごい星空だった。 22日快晴.俺は登る。下をむいて.にらめつけながら登る。ピッケルをたずさえ,いきをきって登る。高く,もっと高くへ・・・・・・。 一歩登るごとに俺は新しくなっていった。だからとびちる汗と共に俺はすべて死んで雪にとけていったように思えた。 黒っぽい青空に.白っぽい太陽が輝いていた。高く白く風が吹きつけていた。雲が眼下を果てしなく漂っていた。 まわりアルプスの山々がすわっていた。3000mに俺がたっていた。 「スゲエやスゲエや」俺はソイツを何とか言葉にあらわそうと焦ったけれど.結局.そんな言葉なんかありやしない。 あるのは沈黙。何もいう必要はなかった。ぽかんと穴のあいていた心の喜びと満足と希望がはいりこんでいた。 (涙なんかでるもんか.つららになっちまうもんな。) ピークでワインをのんだ。ワインの中に雪をいれた.雪が赤くしみていた。俺の顔に.笑いがひろがっていた。 田沼栄一 山の経歴.経過Top |